映画「ワンカラット」の舞台裏
監督の撮影日誌より抜粋/構成 みかわこうじ
ポスト・プロダクション
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ワンカラットの音楽

 96年の日立ロケの頃に作られた初期のテーマ曲は、97年の夏に全て捨てられ、新たな曲が生まれた。それが現在の「ワンカラット」のテーマである。みかわはこの曲が出来たいきさつを「いい音楽は自分で生み出すというより、向こうからやってくるようだ」と語っている。最近の音楽、特にポップスは1つのセンテンスが非常に短く、1小節や2小節単位で音楽が作られているが、「ワンカラット」の場合、テーマのフレーズが長くて、24小節単位である。それが作品の特徴をより明確にしているのだ。この曲を含めて、本編で使用されている音楽は7曲ある。

広告・宣伝

 11月初旬、大里さんに依頼していたチラシの原稿が唐突に届いた。何度か作業内容を確認したいとの連絡をしていたが、突然、完成版が来たのだ。内容は画面の中央にドクロを据えたもので、とても好感が持てる作品ではなかった。テクニックは評価したが、映画の“心”を伝えていないため却下した。

 さて、チラシ原稿が使用出来なくなってしまったので、大川が自家用PCでチラシとチケットを作った。この作品を象徴している写真(キミオとサトルが手前に向かって歩いている構図)をメインに構成されたもので、裏には作品の解説も加えた。その他の宣伝手段として、ホームページを中心にインターネット関連とニフティサーブに定期的に広告を打った。またチケットぴあに広告を出したり、横浜で劇団公演がある時は折り込みチラシを入れてもらったりもした。

最後のインサート・ショット

 1997年1月下旬。最後のインサート・ショットの撮影をした。キミオの下宿の場面の直前に入る草花に雨が落ちるショットである。撮影はみかわ宅の外で行った。当日は雨ではなかったので、ミンボーが水を用意し、宮崎が撮影した。撮影中、みかわは部屋で編集作業を続行していた。撮影が済んだテープをその場で確認し、リテイクを繰り返した。これが最後のショットだと思うと、いくらでも撮影できそうな気分になってしまう。たぶん時間が無限にあるなら、永遠に撮り直しをしてしまうだろう。完成したショットは、直ぐに編集された。

編集

 
撮影の途中から編集作業は始めていたので、作品のもつリズムはほぼ出来上がっていた。フィルムで編集していた時は、作業途中でそれ以前のカットを修正することが可能であったが、ビデオでの編集はつなげたが最後、それが完成となってしまう。「ワンカラット」では、全体の編集作業を結果的に5回行った。最初はコンテ通りラフにつなげたもの。2番目に1番目のテイクを素材にして、それを切りつめて無駄を省いたもの。3番目にシーン別に完全だと思われる構成を組み立てたもの。4番目に本番の編集の予行練習。5番目に本番、という具合である。

 編集で最後まで悩んだのが、ラスト・ショットである。ここの音楽は、撮影開始の時点で決定していて、最後の節はいわゆる終止形で終わらない音楽にしようと考えていた。その理由は二つある。一つは、物語はここで終わるのではなく、これから始まるという予感を漂わせたかったからで、もう一つは、終止形にするとあまりにも“出来過ぎ”たものになって、まるでハリウッド映画のような作りになるからだ。ラスト・ショットをサトルの顔で終わらせることを考えたのは、その撮影の最中である。サトル役の加戸谷の演技が素晴らしく、“目は口ほどに物を言う”ショットとなった。編集段階で他の候補を3種類作成したが、結局“顔”以上に力強い画像ではなかったので、現在のようになった。

完成

 
上映が間近に迫ったが、まだマスター・テープは完成していなかった。アフレコのセリフや効果音などを編集された画像に合わせて、ダビングする作業が最後に残っている。最後のクオリティ・コントロールだ。数十回となくテイクを重ね、納得がいくまで作業を続ける。もうやりようがないということろまできて、最後の音楽をダビングした。

 これでどうやら完成したらしい。出来上がった作品を最初から観てみる。94年5月に生まれたアイデアが映像となり、その本来の姿を現した。完成だ。これでいい。面白い映画になったと思う。しなしながら完成したという実感が湧かない。まだ手を加える事が出来るのではないか、という事を考え続けてしまう。ちなみにその感情は現在まで続いているが、これもいつもの事である。

上映会

 
1997年3月28日、遂に伽羅の上映会の日である。作品の関係者の殆どが今日初めて完成版を観ることになる。上映時間は50分で、映画としては短編の部類に入り、また複雑なセットや特殊効果があるわけでもない。観てしまえば、苦労したショットも数秒で通り過ぎてしまうし、素晴らしい演技がストーリーのテンポにそぐわないという理由でカットされているところもある。誰かがこの映画を観たいと言った訳でもないし、望まれてもいない。結局、自分たちが観たいからという理由で映画を作るのだ。その上出来るだけ多くの人達に共感してもらえるようにと願いながら映画を作るのだ。何十人もの人を巻き込み、作り上げたこの映画に何の価値があるのか。その結果を今日知ることができる。

 劇場スタッフの為のリハーサル用試写での感想は、ほとんどが“こういう映画になったのか”というものだった。上映の準備が完了し、ロビーにあるモニタで「ワンカラット」のメイキングビデオを流した。カウンターには、愛川とミンボーがチケット切りをして劇場への案内をしている。プロデューサーの大川は全体を仕切りながら行ったり来たりして忙しそうだ。宮崎は上映用のプロジェクターの前に座り、最後の調整をしている。みかわは場内で、入場したお客様を座席に案内している。金曜日の夜ということなので、お客様のほとんどが仕事帰りに立ち寄ってくれたというパターンだ。場内には「ワンカラット」のサントラが流されて、気分を盛り上げている。客席に付いた人々は渡されたパンフレットを読みながら始まるまでの時間をつぶしている。いったいこの中の何人が映画を気に入ってくれるだろう。そんなことを考えているうちに上映開始のベルが鳴った。
伽羅の代表作
音楽の評価も高いワンカラット。
リアル・オーディオでそのテーマ曲が聴けます。
皆さんお疲れさまでした。
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